多分これは一枚の写真についての物語なのだろう
木漏れ日に泳ぐ魚 恩田陸
人間の記憶ってふしぎ。都合の悪いことを忘れてしまえる脳みそ。
人間の記憶の不思議さについて考えさせられる本でした。
昔あった出来事が、何かをきっかけにして思い出されるというのはわりとある体験なのではないでしょうか。
雨の匂い、冬の匂い、草の匂いなど、過去の体験を思い出すきっかけになっている気がします。
この本では音をきっかけにして重要なことを思い出すというシーンがあるのですが、そんな大事なことなのに忘れているんですよね。
思い出したくないから忘れてしまえるというのは人間のある意味都合のいい機能なんだろうなぁと。
心中は、愛の証明となる、のか?
さて、他に印象に残ったフレーズとして、「心中が愛の証明になる」というものがありました。
子どもを残すというのは遺伝子に操られた結果なのではないか、という発想からきています。それならば、子どもを残さず生きること、あるいは二人で死に向かうことが遺伝子に反して二人の愛を証明することになるんじゃないのか、というわけですね。
一般論として、結婚圧力とか出産圧力というのはあると思います。結婚しないと一人前として周囲に認めてもらえないとか、あるいは自身が脅迫的にそう思ってしまっている状態。そして、男の子を産めよという圧力、生まなきゃと思い込んでいる状態。
そういうものに縛られず、その人を愛しているという証明をどうやってすればいいのか。それが心中なんだ、と。
・・・追い詰められている人間の発想ってそういうものなのかなぁ。というか、証明がいるのかな?
多分自分探しとかと同じで、自分は自分だって言える人には必要ないことなんだろうな。愛してるのに証明なんかいるか、俺が一番わかってるわ、で十分です。
男って単純ね。はい、その上未練たらたらです。
今回のタイトルに挙げた「別れた彼女に未練がある人が読むとくるよ」という話ですが、女は男ほど引きずらない生き物だよっていうことがすごく分かる本だなと思いました。まぁ男も同じで、大切な人間関係が壊れる瞬間ってのもありますよね。
そういう意味では、男性視点と女性視点で語られているのがこの本の面白いところでもありますね。
綺麗な表現もあり、読後感は好きだった。
正確な記述は忘れましたが、「木漏れ日が水中から見上げたときの太陽に似ている」という表現が気に入りました。なるほど、個人的には木漏れ日ってけっこう好きなんですが、何か遺伝子に眠る祖先の記憶でも刺激されているんですかね。
なんちって。
コメント